top of page
            

 

 

高次の構造や機能を担う多細胞生物システムは、はじめはひとつの受精卵からスタートし、少数の幹細胞が分裂と分化を繰り返すことで、複雑かつ再現性の高い組織を構築していきます。たとえば各組織幹細胞の中でも脳の幹細胞は、時間や環境に対する感受性が高いことが知られますが、時空間情報がどこで生み出され(コーディング)、どのように細胞のふるまいに変換されるのか(デコーディング)については不明な点が多く残されています。当研究室ではさまざまな組織モデルを用い、時空間制御のメカニズムを分子、細胞、組織の多階層間で解析することで、発生プログラムを担う新たな機構を探索し、その動作原理を明らかにすることを目指しています。
 体を構成する組織のうち、感覚や運動を司る脳神経や感覚器は極めて多様なニューロンから構成され、これらの多様性がより複雑な情報の処理と高次脳機能の獲得に寄与していると考えられています。 たとえば大脳皮質のニューロンは神経管の先端に位置する終脳背側の神経幹細胞から産生され、これらの神経幹細胞が脳室帯とよばれる部位で分裂と分化を繰り返すことで、異なるサブタイプのニューロンを産生します。では限られた数の神経幹細胞からどのように多様なニューロンは生み出されるのでしょうか? このためには個々の大脳皮質の神経前駆細胞が何らかの制御によって、様々な分化能を獲得していく必要があります。われわれはこの分化能を制御する機構として、経時的に変化していく転写因子カスケード、および空間的に作用するシグナルに着目し、時間・空間軸に基づき細胞の運命が決定される制御機構について明らかにしていきます。これまでの研究により、大脳皮質の最初期に産生されるカハールレチウス細胞から深層ニューロン産生切り替えのマスター遺伝子として、フォークヘッド型転写因子Foxg1が制御していることを見出しました。 この結果、大脳皮質ニューロンの運命決定が少なくとも一部細胞自律的プログラムによって制御されることがわかってきました。 現在、上層ニューロンのサブクラスのニューロンがどのような分子メカニズムによって多様性を獲得するのかについて、神経前駆細胞に発現する転写因子のin vivo 細胞系譜ラベル解析、ゲノムワイド解析、条件的遺伝子欠失により機能同定をすすめています。

 

 

細胞の運命決定機構

 

システム構築と動作原理の解明
大脳皮質の神経幹細胞から生み出されたニューロンは、最終的に特定の層や領野に対応した場所へと移動しますが、個々のニューロンの配置は予め決まっているのか、それとも周囲の細胞との相互作用により決まるのかについては不明な点が多く残されています。 われわれの最近の研究より、少なくともその一部は細胞自律的に制御されることが見出されています。例えば膜貫通型受容体として知られるRobo分子を機能阻害すると、先に到着したニューロンが最表層にとどまり、後から来たニュー ロンが追い越すことができずに、コンパクトな第2/ 3層を形成してしまいます。このことから大脳皮質ニューロンの位置決定に は、各層に発現する分子が各々の正しい配置を制御して いることが明らかになった。これにより大脳皮質ニューロンの配置が、他の層や領野特異的に発現する分子によっても調節されている可能性が示され、現在これらの分子について機能解析を進めています。また大脳皮質は個性豊かな細胞が秩序だった機能構造を形成する、それ自体が興味深い対象でありますが、モデルとして選ぶ一つの理由として、外部環境に対する細胞構築の可塑性もあげられます。つまり、もともとの神経幹細胞に組み込まれている遺伝子プログラムに加えて、外界からの刺激が最終的に細胞の個性や領野ごとの細胞構築を決定づけるのです。しかしながらこれらの環境との相互作用が、個々の細胞の運命決定にどのような影響を与えるかについては現在のところほとんどわかっていません。そこで、発生段階で特定の細胞間の相互作用や末梢感覚器官からの入力を遮断することにより、個々のニューロンの個性や集団としての秩序にどのような影響を与えるのかについて解析を行っています。最終的に、前後・内外軸に沿ってニューロ ンがどのように分化し、領野ごとの機能を獲得するかを明らかにすることで、ヒトの脳機能構造の構築原理を理 解することを目指しています。  

 

 

進化における発生プログラムの変遷

 

現在地球上に生息する生物種の行動特性は、進化という長い時間軸において個々の分子が少しずつ変化し、これらの分子間の相互作用が修飾されることによって、新たな構造や機能の付加により獲得されたものと考えられています。最近のわれわれの研究により、脊椎動物の進化の過程において、哺乳類の分岐に伴う転写シス調節領域のグローバルな変化によって、新たな細胞機能の獲得につながったことが明らかになりました。このようなゲノムワイドアプローチにより、シスおよびトランス調節配列の両方における急速な変化が、特定の生物群の進化の推進力となっている可能性が示されました。一方、同じ生物群の異なる種間において、発生はどのように共通のプログラムを継承しながら形態多様性を生みだしていったのかについては不明な点が多く残されています。当研究室では器官形成において、異なる細胞集団の産生と分化を制御する仕組みを明らかにするために、特定の細胞腫の数と分化のタイミングの生体内操作により、異なる細胞種間の産生タイミングが密に連携していること、さらに細胞の産生順序が幹細胞の転写因子カスケードにより規定されていることを明らかにしました。また異なる細胞腫間の産生の切り替えは、先に分化した細胞からのフィードバックシグナルにより制御されていることが明らかになり、器官形成における細胞の産生が、細胞自律的にコードされる遺伝子プログラムと周囲の細胞からのシグナルを統合することで、細胞腫間の数的バランスを保っていることが明らかになってきました。現在哺乳類動物、非哺乳類動物モデルを用い、遺伝子のスワッピングや細胞移植実験等により進化における発生プログラムの変遷とその原理の解明に挑んでいます。

 

evolution.jpg
bottom of page